前回は、「楠見晴重先生から、天満の地下水を復活させる可能性が示唆された」お話をしました。
楠見先生は地下水のエキスパートで、京都の地下に豊富な水が溜まっている様子(京都水盆というそうです)を3次元的にCGであらわすことに成功しています。さらには、この京都水盆の水量は約211 億トンであり、なんと琵琶湖に匹敵する(!)量であることも明らかにしました。こうした楠見先生の研究成果をうけて、関西大学と伏見酒造組合は、地下水の利用と観光保全についての研究で連携協定を結んでいます。
楠見先生と天満の地下水の話をする数か月前、語り手は楠見先生の講演会でこの話を聞いていました。しかし、天満の地下水の復活に、楠見先生のお知恵を拝借しようという発想はまったくなかったのです。まったくいつでもどこでも迂闊です。
そして、町街塾(こちらは、「『天満天神の水の物語の始まり』の始まり」をご参照ください)で楠見先生とご一緒し、大学に戻る学長車に乗せていただかなければ、この発想はずっとないままだったのです。
こうした偶然から「天満天神の水の物語」は始まりました。いつも「偶然」から始まるその物語が紡がれていくには「前をみては、後えを見ては、物欲しと、あこがるる」人々の集まりが要るようです。
そうして、天満天神の水の復活は、多くの人々の思いとなっていきます。
三 凱旋と伝言
町街塾から大学に戻る車の中で、リサーチアトリエの大家さんとの話(昔はいい地下水がでたけれど、井戸が枯れてしまい、もう規制で掘ることはできない)を、道中の四方山話の一つとして楠見先生に話しました。すると、語り手が聞き逃しそうになるくらいにアッサリと
楠見先生:「いや、井戸は掘れますよ」
語り手:「えーっと、それは…その…(心の声:はっ?なんですかぁ?)」
語り手:「(意識をとりもどして)地下水の取りすぎで、地盤沈下も起こったため、掘ることが禁止されていると聞いたのですが…」
楠見先生:「1インチ(約2.5センチ)までの太さのパイプなら大丈夫なんです。井戸の掘削規制のおかげで地盤沈下も止まり、地下水もかなり豊富になっていると思います。」
楠見先生:「工業用で使うのでなければ1インチのパイプでも十分役に立ちますし、地下水を使いすぎて悪影響を与えるということもまったく心配しないでいいでしょう」
語り手:「ほ、本当ですか?!(心の声:まじかよぉ!!!)」
語り手:「その話、商店街に伝えてもよろしいでしょうか?」
楠見先生:「ええ、結構ですよ。私も過去のボーリングのデータなどあたってみましょう」
語り手:「ありがとうございます。商店街の方々が企画を考える種になり、とても喜ぶと思います(心の声:まさか、井戸復活の可能性があるなんて…涙…)」
上記のやりとりは、あくまで記憶の中のもので、楠見先生からは専門家としてのずっと正確なお話がありました。
そうだったんです…
その日、語り手は迂闊にも忘れておりました。楠見先生が地下水の権威(!)であることを…
この日から数か月前、楠見先生にわざわざお願いして、吹田市民向けの講座で「京都の地下に琵琶湖と同じほどの地下水が眠っている」という話をしていただいたばかりだというのに…
学長職で多忙な先生にわざわざご講演いただいたというのに…
車に同乗させていただき緊張して、各種の記憶が飛んでいた語り手です。
楠見先生のアッサリと話された内容は、語り手にとっては「ジェネラル・ルージュの凱旋」を目の当たりにしたような衝撃で、かつ、商店街へは「ジェネラル・ルージュの伝言」を仰せつかった気分でありました。
いまから11年前の5月22日、こうして「天満天神の水の物語」が始まりました。
(下の写真は、SOLARISの入っているイノベーション創生センターとその定礎)