七 見えざる手の恩寵

これで、井戸を掘るのは難しくなったかもしれないと思い、いくぶんの落胆を覚えたのですが、その一方、より大きな期待も芽生えていました。というのは、大阪天満宮で井戸を掘ることを以前より心密かに願っていたからです。

最初に、井戸を掘る話を商店街の会長にしたとき、思い付きで「天満宮に掘れるといいですね」といったところ、「(この商店連合会の場所からは)遠すぎて、この商店街の賑わいにはつながらんな」という、どちらかというと冷めた返事がありました。地元商店街のためになることを第一に考えてきた会長にとっては、天満宮に井戸ができてもおかげ館のある地域への波及効果が少ないという見込みがあったようです。その気持ちはよくわかりますし、論理的で、筋の通った話でもありましたので、その後、大阪天満宮で掘ってはどうかという話を私から持ち出すことはありませんでした。そして、前回のとおり、おかげ館での検討が進んでいきました。

 おかげ館での井戸の掘削が難しくなってから、いろいろな仕事に取り紛れ、井戸を掘る場所の選定などで動くことができずいました。そのため、しばらく積極的にこの話にかかわることがなくなっていたのです。ただ、別用で商店街に行くことは頻繁にあり、会長とはよく顔を合わせていました。そんな形で商店街を訪問したある日のこと、とても嬉しそうに会長が話しかけてきたのです。

「天満宮に枯れた井戸があるんやが、そこで掘ったらどうかって宮司が言うてくれてる。天満宮に井戸が掘れたら、そりゃ目出度いことやな。」

 そうです、その枯れ井戸こそ、連載第一回に言及した名井「五知の井」にほかなりません。

 こうして、俄然、大学×商店街×大阪天満宮の共同の可能性が具体化し、この展開は学長、商店会長、天満宮宮司のトップ会談へと続いていきます。

 大阪天満宮は、天満天神繁昌亭という大阪の寄席の復活でも大きな貢献をしてきており、そうした事柄を通じて、宮司と商店会長は古くからの盟友といった関係にありました。そこに、地下水の専門家である学長が参加することで、夢物語は一挙に具体化しはじめました。

 こうして、これまで全く想定していなかった、大学、商店街、大阪天満宮の共同プロジェクトが生まれました。多くの方々の希望、努力、意欲が生んだプロジェクトではありますが、出会いの積み重ねがなければ生まれることのなかったプロジェクトです。神の見えざる手の恩寵を感じた瞬間でした。