三 凱旋と伝言 

町街塾から大学に戻る車の中で、リサーチアトリエの大家さんとの話(昔はいい地下水がでたけれど、井戸が枯れてしまい、もう規制で掘ることはできない)を、道中の四方山話の一つとして楠見先生に話しました。すると、語り手が聞き逃しそうになるくらいにアッサリと

楠見先生:「いや、井戸は掘れますよ」
語り手:「えーっと、それは…その…(心の声:はっ?なんですかぁ?)」
語り手:「(意識をとりもどして)地下水の取りすぎで、地盤沈下も起こったため、掘ることが禁止されていると聞いたのですが…」
楠見先生:「1インチ(約2.5センチ)までの太さのパイプなら大丈夫なんです。井戸の掘削規制のおかげで地盤沈下も止まり、地下水もかなり豊富になっていると思います。」
楠見先生:「工業用で使うのでなければ1インチのパイプでも十分役に立ちますし、地下水を使いすぎて悪影響を与えるということもまったく心配しないでいいでしょう」
語り手:「ほ、本当ですか?!(心の声:まじかよぉ!!!)」
語り手:「その話、商店街に伝えてもよろしいでしょうか?」
楠見先生:「ええ、結構ですよ。私も過去のボーリングのデータなどあたってみましょう」
語り手:「ありがとうございます。商店街の方々が企画を考える種になり、とても喜ぶと思います(心の声:まさか、井戸復活の可能性があるなんて…涙…)」

上記のやりとりは、あくまで記憶の中のもので、楠見先生からは専門家としてのずっと正確なお話がありました。

そうだったんです…
その日、語り手は迂闊にも忘れておりました。楠見先生が地下水の権威(!)であることを…
この日から数か月前、楠見先生にわざわざお願いして、吹田市民向けの講座で「京都の地下に琵琶湖と同じほどの地下水が眠っている」という話をしていただいたばかりだというのに…
学長職で多忙な先生にわざわざご講演いただいたというのに…

車に同乗させていただき緊張して、各種の記憶が飛んでいた語り手です。
楠見先生のアッサリと話された内容は、語り手にとっては「ジェネラル・ルージュの凱旋」を目の当たりにしたような衝撃で、かつ、商店街へは「ジェネラル・ルージュの伝言」を仰せつかった気分でありました。

いまから11年前の5月22日、こうして「天満天神の水の物語」が始まりました。

(下の写真は、SOLARISの入っているイノベーション創生センターとその定礎)

一 天満天神の水の物語 

その昔、大阪天満宮の正門を入ってすぐ左側に、「五知の井(ごちのい)」と呼ばれる井戸がありました。この井戸から汲まれる水は、名水として名高いものでした。ただ、高度経済成長期に大阪全域で地下水が大量利用され、とても残念なことに「五知の井」も枯れてしまいました。
 「天満天神の水の物語」は、大阪天満宮の境内の井戸が復活し、そこから湧き出る地下水がさまざまに利用されている現在までの記録です。
 このサイトのトップ写真は、現在の水のお社から地下水が湧き出ている様子です。また、上の写真は、揚水試験(どれだけ豊富な地下水があるかをテストする試験)で、天満宮の岸本禰宜が水の試飲をした際の様子です。この写真が撮られた2011年10月26日は、大阪天満宮の地下に豊富な水があり、大阪天満宮の井戸の復活が確定的になった日です。
 これから、この日までの物語と、この日からの物語を、記憶と記録をたどって(訥々とですが…)掲載していきます。